看護教員の先生方は、看護教育について自分自身の考え方や思いなどをしっかりと持っていると思います。僕自身も専門学校で教員をしていた時は、けっこう色んな本を読んであーだ、こーだと自分で考えたりしていました。
この前、なんとなくUSBのデータを整理していたら、大学院生時代に作成した自分の考える看護教育についてというレポートがありました。
このレポートをみて、忘れかけていた何かを思いだした気がしました。素直に自分がその時に思ったことを書いていて、こういう想いは大事だなって改めて感じることができました。
今回は、そのレポートを再編して綴っていきたいと思います。(ちょっと文章がおかしいところもありますが、ご了承ください)
ぼくの考える看護教育とは
看護教育において大切なことは、教えこむことよりも自分で考えて学びを深めることができるようにすることが重要であると考えます。
とくに近年では医療の発展は目まぐるしく、今日の最新の知識や技術が、明日にはもっと新しい知識や技術に変えられている可能性もあります。
そんな時代の中で、新しい知識や技術を自ら学んでいかないと、以前に教えてもらった古い知識や技術を駆使していては看護の発展はないといえると思います。また、産業の発達により高度な認知能力で状況を判断する人工知能、自分で動作を学ぶ賢いロボットなどの存在が日常化する未来もくるかもしれません。
そうなってくると、古い知識や技術にすがり、自分で考えない看護師には自己の価値が見いだせなくなってしまうのではないかと考えました。
看護学校や大学に入学してくる学生は、高校を卒業した現役生から、社会人を経験してきた既卒生まで年齢が様々です。
専門学校や大学は高等教育機関で、そこで学ぶ学習者は成人学習者と言えると思います。そのため、教育においては成人教育学の理論から考えることができます。
成人教育学(アンドラゴジー)は、成人の特性を生かした成人の学習支援論の体系のことで「学習の全段階において教師が主導権をもつことを前提とするペタゴジーとは異なり成人学習者が自らの学習に自己主導性を発揮できることを重視する自己主導型学習が提起されている。」(小野2012)という理論です。
学習者の意思を尊重しながら、経験を活用し学習者自身がやってみようと思えるように学習を促すということです。このことからも、看護教育においても成人学習者である学生さんの意思を尊重し、自分自身から学習できるような関わりが必要になってくると考ます。
ぼくは、看護専門学校や看護大学で看護基礎教育に携わってきました。そのため、看護教育のあり方についてはよく考えることがあります。
学生さんが卒業してから、看護師として長く勤務してもらうためにはどのようなことが必要になるのかな。能力なのかな、それとも心なのかな。さらには、できる看護師とはどのような看護師で、できない看護師とはどのような看護師のことをいうのかな。どのような教育が正解なのか…など様々なことを考えますが、答えがみつからないままです。
同じ職場で勤務する教員をみてみると、看護師として立派な考えがある教員が多いと思いました。だからこそ、それらを学生に伝えよう、自分の考えを理解してもらおうといろいろと工夫されています。ただ、それを学生さんに伝えること理解してもらうことが教育になるのだろうかと考えたりもします。
しかし、学生さんでも未熟ながらも看護観があり、看護や医療、援助などに対しての考え方があるはず。そこを自分で考えながら、自分の看護としての考えを確立できるような関わりこそが看護教育ではないかと。
看護師は、患者さんに対して信頼関係を築くために、患者さんの訴えや考え方に耳を傾け、患者さんの思いを受容します。そして、目標志向型で患者さんを捉えて、患者さんの強みを引き出しながら、よりよい生活へと導くことも看護のひとつであります。
教育という言葉には、能力を引き出すという意味もあり、患者さんへの看護に通ずるものがあるのではいでしょうか。このことからも、ぼくは教育とは学生の力を引き出せるように看護することではないかと考えました。
そして、学生さんに対して丁寧に看護すること、教育することによって学生さんは大事に教育された経験をもち、患者さんや看護師を目指す後輩を大事することを学んでいくのでははないかと思います。
山本(2009)は、看護基礎教育に関わる教員および実習指導者の意識をテーマにアンケート調査をおこない、教員と指導者それぞれの実習指導の意識を研究しています。教員に「どのような看護師になってほしいか」という問いを行った結果、「対象に寄り添うことができる看護師」「コミュニケーションを通して他者と協働できる」「対象者を的確に把握し根拠あるケアを提供できる」「対象者を全人的に捉える」「向上心をもち仕事を誇りに思う」の5つのカテゴリーが生成されたとしています。この研究の中で、ぼくが一番大切にしたいと感じたのは「向上心をもち仕事を誇りに思う」のカテゴリーにあります。
このカテゴリーは「看護の仕事に誇りをもつ」「向上心をもち学び続ける」の2つのサブカテゴリーから生成されていまして、この2つのサブカテゴリーは、プロフェッショナルとして欠かせないことであると思います。
とくに「向上心をもち学び続ける」は、日本看護協会の看護者の倫理綱領(2003)の8条や11条、13条などに準じる内容であり、フレクスナーの専門職の基準(公益社団法人日本看護協会 2012)においても、2項目目の「常に学ぶべきである。専門職に従事する者は常に研究会やゼミに出入りして新しい事実を見出し、それを学習する」に準じています。
そのため、看護基礎教育がプロフェッショナルの育成である以上は、必ず必要になってくる内容であると考えました。
看護基礎教育では、よくコミュニケーション力やアセスメント力、実践能力の向上であったり、看護協会が発表した「看護師のクリニカルラダー」(2016)においても4つの核となる力といった表現をしたりと、力という言葉をよく使うことがあります。
実際に看護を実践していくのに看護を実践する力というのは必要で、とても重要なことだとは思います。
しかし、わたしは力にばかり目がいくことに違和感をも持ちました。
以前、神戸新聞の正平調に小児科医の毛利子来氏について「生きる力って何だろうと問われれば「『力』というのが好かんのだ。力んで生きるのはつらい。無理して生き抜こうとすれば、いつかポキッと折れてしまう。『頑張れ』ばかりの教育はやばいです」と返した。」(神戸新聞 2017)と記事が書かれていました。
ぼくはこの記事から、看護教育でもよく使われることの多いワードである「力」という言葉に違和感をもつようになりました。
看護師において「力」を身につけることは大切です。しかし、「力」を使う「心」がないと看護は成立しません。逆に「心」さえあれば、技術を身につけることや知識をつけること、体験を経験として学習しようとすることなど、「力」をつけることができるようになると思います。
このことからも、わたしは看護教育において「力」優先よりも看護の「心」を育成することが優先されるべきであると考えます。そのため、「向上心をもち学び続ける」という教員の願いはとても優先的で重要なことであると考えます。
「看護の仕事に誇りをもつ」という内容は、看護師の離職防止につながります。自分の行っていることに自信がなく、嫌いだと思う仕事をしていると看護の質の低下にもつながるでしょう。そして、看護師から距離を置いてしまう…。
自分の仕事に誇りをもち、自分の勤めている病院に家族も入院させたいと思うような気持ちで看護を行うことが、看護の質も上がり、離職も減少させることができると思います。そのためには、看護基礎教育においても看護を職業とすることの楽しさや、看護師としての可能性などを示し、自分が看護師であるという誇りを持てるように教育を行うことが必要だと思いました。
以上、看護教育についての考えを述べてました。看護専門学校や看護大学には、学生さんは、看護師になるという夢を持って入学して来ています。
その夢をかなえるお手伝いができる場にいることに、ぼく自身がもっと誇りを持ちたいと思います。
しかし、夢をかなえて看護師となり病院で勤務していくうちに、多重業務や職場風土、夜勤やマンパワー不足による重労働…などから退職していく卒業生たちを見ると、夢をかなえるお手伝いだけではいけないと感じました。
看護基礎教育において、まだまだ課題はあるとおもいますが、そのような中でも希望をもって看護に従事できるような看護師を育成したいと思います。そのためにも、学生さんが卒業し、いつまでも看護師であることに誇りをもち希望をもてるような教育を行っていきたいと思います。そして、成人学習者である学生さんに、僕自身が看護師としてまた看護教員として寄り添い、学生さん看護の心や強みを伸ばしていけるような教育をしていきたいと思いました。
引用文献
池田 七衣・新井 祐恵・冨澤 理恵・田中 京子・山中 純湖(2014).看護基礎教育に関わる教員および実習指導者の意識 千里金蘭大学紀要,11,35-47.
神戸新聞(2017).正平調 神戸新聞 11月5日朝刊,1.
日本看護協会(2003).看護者の倫理綱領
日本看護協会(監修)(2012).新版 看護者の基本的責務――定義・概念/基本法/倫理 株式会社日本看護協会出版会
日本看護協会(2016).看護師のクリニカルラダー
小野 美穂(2012).看護実践に活かす中範囲理論 野川道子(編)(pp.325-341)メヂカルフレンド社
おわりに
看護教育について、数年前に僕自身が考えていた想いを改めて感じることができました。
考え方って、時代とともに移り変わるものであると思います。だからこそ、その時に思った考え方や、素直な気持ちって記録しておくことは大切だと思います。
あの時は、こんな風に思っていたんだなーとか、今も変わらずにいるんだなーとか。今の自分を作っている土台みたいなものを改めて感じることで、さらなる頑張りに繋がっていくんじゃないかなーって思いました。
学生さんが看護に希望や誇りをもち。看護の心や強みをしっかり伸ばせるように、明日からもがんばっていきたいと思います。